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2025.07.06お知らせ
寺院の経営支援を一手に引き受けるビジネスモデルが、社会的ニーズを的確に捉えているとして注目を集めています。
2025年6月25日、永代供養・樹木葬などの販売代行サービスを手がける「株式会社エータイ(以下、エータイ)」が、東京証券取引所グロース市場に上場しました。上場初日の初値は2,547円と、公開価格1,510円を大きく上回る好スタートを切ったと話題になりました。
「お寺の未来は一体どうなるのか?」という問いが、これほど現実味を帯びて語られる時代は無かったと思われます。今回は、エータイのビジネスモデル、競合他社との比較から見える強みと課題などを整理し、その将来性を考察してみます。

目次
- 供養サービスを軸にした寺院支援
- 増加する寺院コンサルティング
- 寺院M&Aの可能性
- 天明寺が実践するイベント
- 「心の拠り所」としての本質を忘れないために
供養サービスを軸にした寺院支援
エータイは、2004年に創業された寺院向けの経営支援会社です。首都圏を中心に全国の80以上の寺院と提携し、永代供養墓や樹木葬の造成から販売代行、法要管理、さらには顧客対応までを一貫して支援しています。これまでに累計3万件以上の永代供養契約を取り扱った実績を持ち、その実行力には定評があると言われています。
近年、供養の在り方は大きく変わりつつあります。かつて主流だった「家墓」「菩提寺制度」は、後継者不在や都市部への人口集中により維持が困難となり、より柔軟で管理の手間が少ない永代供養や樹木葬へと関心がシフトしています。エータイは、こうした供養スタイルの変化に対応するだけでなく、宗派を問わない受け入れ体制や、永代管理費がかからない価格設計など、顧客視点に立ったプラン展開を行っています。
また、契約後も法事や納骨に至るまで継続的にサポートする体制は、従来の販売代行だけの「仲介型」では得られない安心感を提供していると言われています。
増加する寺院コンサルティング

寺院の経営支援を行う企業はエータイだけではありません。近年では、「一般社団法人お寺の未来(以下、お寺の未来)」や「株式会社船井総合研究所(以下、船井総研)」も寺院支援に進出しており、それぞれに異なるアプローチで寺院の再活性化を目指しています。
「お寺の未来」は、東大文学部出身の井出悦郎(いで えつろう)氏と武蔵野大学教授である松本紹圭(まつもと しょうけい)氏が運営する寺院経営マネジメント会社です。寺院を単なる宗教施設ではなく、地域社会の文化および教育の拠点として再定義する活動を行っています。彼らの特徴は、仏教文化の発信や座談会などのイベント開催を通じて、寺院の社会的役割を強調する点にあります。
一方の「船井総研」は、業界を問わず経営支援を行ってきた老舗のコンサルティング会社であり、寺院向けの集客戦略や永代供養ビジネスの導入にも積極的に関与しています。特に「三点集客モデル」と呼ばれる営業手法が話題で、地域に点在する三つの寺院を拠点とし、その三角形の内側に住む地域住民を対象に広報活動を行っているそうです。
戦略的にターゲットを切り取って、効率的な訴求を可能にする手法としては良い方法だと言えるでしょう。また「終活相談会」や「仏教講座」などのイベントを定期的に主催し、バックエンド商材として永代供養や樹木葬の販売に繋げる “インバウンド営業” も強化しています。
とはいえ、これらの企業に対しては一部で批判的な声が上がっているのも事実です。たとえば、永代供養の契約1件につき多額の手数料が発生したり、取材と称して寺院のノウハウを吸い上げ、それを許可なく教材化して販売するという報告もあります。ある住職は「取材協力をしたつもりが、自分の話した内容が無断で商材にされていた」と憤ります。こうした事例は、信頼関係を重視する宗教法人にとって大きな問題ではないでしょうか。
寺院M&Aの可能性

各社の寺院支援の取り組みが進む中、今後は「寺院そのもの」を対象としたM&Aの可能性にも注目が集まっています。地方では後継者不在や檀家の高齢化によって存続が困難な寺院が急増しています。こうした寺院を企業が譲受することで、宗教法人と企業が共存する新たなモデルが模索され始めているんです。
仮にエータイが寺院を自社ブランドとして再生し、僧侶の派遣・供養の執行・法事の運営を包括的に担う体制を整えることができれば、まさに「供養のインフラ企業」としての地位を周辺地域で確立することになります。単なる仲介業務の枠を超えて、寺院の存在そのものを再構築する未来が視野に入ってくることでしょう。
こうした地域型の施策をパッケージ化できれば、大都市圏だけでなく地方寺院の再生にも貢献できる可能性が広がります。さらに、例えば葬儀関係業者や石材業者と提携を結び、永代供養などの提案を担当するようになれば、互いに欠点を補い合うことができるかもしれません。
天明寺が実践するイベント

地域住民との繋がりという意味では、天明寺でも毎年12月第2土曜日に「白菜加持法要」というイベントを開催しています。山積みにされた白菜を前に護摩を焚き、無病息災や願い事の成就を祈願する催しです。護摩焚きの後には、参拝者が炭や灰の上を素足で歩く「火渡り」も行われ、非日常的な体験として評判を呼んでいます。
単なるイベントで終わらせない工夫も施しています。開催に当たっては30万円の広告費を投じてチラシを配布。その裏面には永代供養の説明を丁寧に記載しており、実際に参加者の中から契約に至るケースも少なくありません。
※詳しくはコチラの記事も御覧ください。
確かに今、「宿坊観光地化」「御朱印・お守り」「寺院婚活パーティー」など、全国各地でも力を入れて取り組んでいる寺院は多いでしょう。しかしながら、これまでのnote記事でも繰り返し言及してきましたが、顧客管理リストを作成して寺院運営に活用しない限りは、どんな飛び道具を使って知名度を上げようとも、将来的に利益を確保し続けることは難しいと考えています。
マス向けに話題性のあるイベントを開催したとしても、来場者と継続的な関係性を築くことができなければ何も意味がありません。イベントやグッズは、あくまで集客を目的とした広告宣伝施策に過ぎず、それだけでは収益を上がりません。参拝者やイベント参加者が何を求めているのかに耳を傾け、長く付き合うためのファンになって貰わないといけません。
「心の拠り所」としての本質を忘れないために

寺院は供養や葬送といった実務的な機能だけでなく、人々の心の安寧を支える場所として地域社会に根ざしてきました。
現在、ビジネスとしての供養市場が成長を見せる一方で、宗教施設の本質が形骸化してしまう懸念もあります。特に企業が寺院運営に関わるようになると、収益性や効率性が重視されがちで、利用者との関係も “単なる顧客” という枠に閉じ込められてしまう危険性があります。
永代供養や樹木葬の販売代行が契約の終着点ではなく、参拝者や遺族が「また訪れたい」と思えるような場所にしていくための工夫が寺院には求められています。また、地域コミュニティにおける役割を再定義し、子どもたちの学びの場や高齢者の憩いの場としての活用も模索すべきです。
精神的な繋がりの希薄化が社会課題となる今だからこそ、何のために寺院は存在するのか。その答えが、業界全体に求められていると考えています。