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2025.11.11お知らせ
昔から「坊主丸儲け」という言葉があります。坊主は元手ゼロでお布施を懐に入れ、何もしなくても儲かる。つまり楽して稼げるという意味で語られてきました。
現代風に言えば、「お坊さんはお布施をもらっても税金を払わず、全部自分のものにしているんでしょ?」というイメージでしょう。会社員や事業主が日々、給与や売上から税金を引かれていることを考えると、そうした印象を持つ方がいるのも無理はありません。
実際に「俺たちはこんなに税金を納めているのに、お坊さんはいいよな」と言われることもあります。なるほど、と思わず苦笑いしてしまうこともあります。
しかし結論から言うと、「坊主丸儲け」という言葉は半分は正しく、半分は間違いです。確かに宗教法人には非課税となる部分がありますが、「まったく税金を払っていない」というのは誤解なのです。お寺も実際には、さまざまな税金をきちんと納めています。そもそもなぜお寺などの宗教法人は税金面での優遇措置があるのでしょうか。実はこのことには歴史を紐解くと見えてくる確固とした理由が存在します。
意外に知らない人が多いであろうお寺の税金面周りの事情について気になる点をご紹介します。
目次
- 昔のお寺は「なんでも屋さん」だった
- 現代に求められるお寺の「学び舎」としての役割
- お寺はすべてが「非課税」というわけではない
- 固定資産税:本堂や庫裏は非課税、でも例外あり
- お金の流れに関する税金:宗教活動以外は課税対象
- 宗教法人の法人税率が低い理由
- お寺が実際に払っている税金一覧
- 坊主丸儲け? いいえ、「坊主、必死でやりくり」
昔のお寺は「なんでも屋さん」だった

昔のお寺は地域の人々が集い、学び、悩みを相談し、互いに助け合う「心と暮らしの総合センター」のような存在でした。学校のような役割もあれば、病院や役所のような機能もあり、困ったときに真っ先に頼れる存在だったのです。けれども、今の時代、お寺が人々から必要とされなくなってしまえば、話はまったく違ってきます。
お寺が税金の一部を免除されているのは「宗教団体だから特別扱いされている」わけではありません。そうではなく、「地域や人のために活動している場所だから」という理由があるのです。
もしも、お寺が人のためではなく、お金儲けばかりを目的にしてしまったり、地域とのつながりを失ってしまえば、お寺の存在意義も優遇される理由もなくなってしまいます。
もちろん、今は昔と違って、行政のサービスや福祉制度が整い、学校や病院、相談窓口もたくさんあります。だから、お寺が昔のように、なんでも屋さんとしてすべてを担うのは現実的に難しいかもしれません。

それでも、今の時代だからこそ、お寺にしかできないことがあるんです。例えば、お寺の広いお堂を活かして「子ども食堂」や地域カフェを開いたり、悩みを抱える人の話を聞く「傾聴の場」を設けたり。あるいは、写経や瞑想の体験会を開いて、心を落ち着ける時間を提供するのも立派な社会貢献です。
災害が起きたときには避難場所としてお堂を開放し、孤立しがちな高齢者の見守りや、後継ぎのいない人の永代供養を引き受けるといった活動も、まさに、お寺だからこそできることなのです。
つまり、昔のお寺が暮らしを支える総合センターだったように、今のお寺は心を支えるセンターへと形を変えています。
時代が変わっても、「人のためになる場所である」というお寺の本質は変わりません。その役割をきちんと果たしている限り、お寺はこれからも社会に必要とされ続ける存在なのです。
現代に求められるお寺の「学び舎」としての役割

先ほどご紹介した「子ども食堂」をお寺で実施しているところが多くあります。その背景を少しご紹介します。
お寺で開催される子ども食堂はお堂や庫裏を開放し、地域住民やボランティアと協力しながら、食事の提供だけでなく、温かいコミュニケーションや心のケアを行っています。
食べることは生きることそのものですから、お寺がこの活動を支援することは、まさに「命をつなぐ布施行(ふせぎょう)」とも言えるでしょう。
また、食という面では「おてらおやつクラブ」という活動も全国的に注目されています。これは、お寺にお供えされたお菓子や食品を経済的に困難な家庭に届けるという取り組みです。お供え物をただ下げるのではなく、仏さまからのめぐみとして再び必要な人のもとへ届ける。
その発想が多くの共感を呼び、環境大臣賞優秀賞を受賞するなど、お寺の新しい社会貢献の形として高く評価されています。単に施しではなく、ご縁をつなぐというお寺らしい考え方が、この活動の根底にあります。

さらに学びの面でも、お寺の原点を現代に生かそうとする動きが広がっています。かつての寺子屋は、読み書きそろばんだけでなく、礼儀や生き方を学ぶ場でもありました。
その精神を引き継ぎ、現代版寺子屋として、お寺で習字や坐禅、写経教室を開いたり、子どもから高齢者まで誰でも参加できる英会話やヨガの教室を開催している寺院もあります。学びを通して世代や立場を超えた交流が生まれるのは、お寺という「垣根のない空間」だからこそ可能なのです。
江戸時代の寺子屋とは形は違えど、その根っこにある「共に学び、共に育つ」という精神は、今なお息づいています。
お寺ができることは、決してこれだけではありません。災害が起きたときには、お堂を避難所として開放し、地域住民の命を守る拠点となることもあります。夏祭りや盆踊りなどの文化行事では、地域の中心として人と人をつなぎ、伝統を次世代へと受け継ぐ役割を果たします。
そして、現代社会で増えつつある孤独死や後継ぎのいない人への「永代供養」も、お寺が担う重要な責務です。
誰にも看取られずに亡くなった人にも、手を合わせて供養し、祈りを捧げることは、お寺が最後の居場所として存在している証でもあります。
このように、お寺は昔も今も「何かあった時に帰れる場所」です。人が生まれてから亡くなるまでの人生に寄り添い、日常の安心と心の支えを提供してきました。だからこそ、制度的にもお寺は守られているのです。税金の優遇とは、決して特権ではなく、「人を支える場所であり続けるための責任」とセットになった仕組みです。
お寺がその使命を果たし、地域の中で“生きた存在”であり続ける限り、昔のように、なんでも屋さんとしての精神は、これからも形を変えながら受け継がれていくのです。
お寺はすべてが「非課税」というわけではない

「実際、お寺ってどのくらい税金を払ってるの?」
そんな疑問を持つ方は多いでしょう。どうしても、坊主丸儲けという言葉の印象が強く、「お寺は税金を払っていない」「全部非課税なんでしょ?」と思われがちです。
でも実際はそんなに単純ではありません。結論から言うと、宗教活動に関係する部分は非課税として認められていますが、それ以外の部分にはきちんと税金がかかります。
固定資産税:本堂や庫裏は非課税、でも例外あり

土地や建物のうち、宗教活動に直接使われている本堂・庫裏・お墓・納骨堂などは「非課税」とされています。本堂は法要や読経が行われる場所、庫裏は僧侶や職員が行事準備・来客対応を行う拠点であり、“信仰を守るための場所”として扱われます。
ただし、自動的に非課税ではありません。例えば、庫裏に住職の家族が住んでいる場合、個人使用分と宗教活動分を分けて計算する必要があります。場合によっては、住職個人が家賃や光熱費の一部を負担するケースもあります。つまり、私的利用と宗教活動を明確に区別することが求められるのです。
お金の流れに関する税金:宗教活動以外は課税対象

お寺に入るお金のうち、お布施・御朱印料・祈祷料・戒名料などは「信仰に基づく寄付(喜捨)」として扱われ、非課税です。これは営利目的の“売買”ではないため、消費税も法人税もかかりません。
一方で、宗教活動以外(収益事業)は課税対象で、以下の営利性のある活動には、法人税が課されます。分かりやすい例が「宿坊(しゅくぼう)」です。
- 境内でマルシェやイベントを開催して利益を得る
- 駐車場を有料で貸し出す
宿泊料を受け取って運営している場合は宗教活動ではなく、宿泊業とみなされ、課税対象になります。ペット葬儀も同様で、形式上は宗教儀式でも、実質的にサービス提供と見なされれば法人税がかかります。
つまり、課税・非課税の分かれ目は、行為の内容ではなく、宗教性があるかどうかなのです。
ちなみに、宗教法人でも、住職や事務員には給与が発生しています。当然、所得税・住民税の納付義務があります。会社員と同じく源泉徴収が行われ、確定申告も必要です。宗教法人だからといって、個人の税金が免除されることはありません。
宗教法人の法人税率が低い理由

宗教法人は「公益性のある団体」として、税率の優遇措置があります。
通常の株式会社では、所得が800万円を超えると法人税率は23.2%です。一方、宗教法人は19%です。同じ1,000万円の利益でも、企業なら232万円、宗教法人なら190万円の法人税となります。ただしこの優遇は、儲けさせるための制度ではなく、信仰と公益を守るための仕組みです。
もしお布施や法要料にまで税がかけられたら、祈りまで経済活動扱いになってしまいます。とはいえ、「お寺は優遇されてずるい」と思われるのも無理はありません。
立派な建物や高級車を見れば、そう感じるのも自然です。しかし現実は、多くのお寺がギリギリの経営。檀家の減少や高齢化で収入は減少し、維持費・修繕費・人件費が重くのしかかっています。この税制優遇は、そんなお寺を支える「最低限の支え」でもあるのです。
お寺が実際に払っている税金一覧

「全く税金を払っていない」わけではなく、お寺も一般の事業者と同じくさまざまな税を納めています。
- 固定資産税…宗教活動専用の土地・建物は非課税。 ただし、駐車場やアパート経営などは課税対象。
- 法人税・事業税…貸しホールやカフェなど、宗教活動以外の収益事業に課税。
- 消費税…お布施や祈祷料は非課税だが、物販(お香・花・位牌・漬け物など)には課税。 天明寺のオンラインストアの商品にも一部課税されています。
- 所得税・住民税…住職や職員への給与は課税対象。源泉徴収・申告が必要です。
- 社会保険料・労働保険料…人を雇う場合は、健康保険・年金・雇用保険・労災保険に加入義務があります。
「非課税=ズルい」と思う方もいますが、それは誤解です。非課税は宗教活動を守るための制度であり、お坊さんを優遇するためではありません。宗教法人は毎年、事業報告書・収支計算書を提出し、会計を明確に管理しています。お布施の使い道も「法要費」「施設維持費」「公益活動費」として区分されています。
坊主丸儲け? いいえ、「坊主、必死でやりくり」

お寺は光熱費や修繕費、人件費、行事費など支出は年々増えています。檀家の減少や後継者不足で経営は厳しく、非課税と課税の両立の中でお寺はなんとか成り立っています。
限られた資源の中で地域行事や葬儀・供養を続けるため、お寺の住職は日々努力しています。つまり「坊主丸儲け」どころか、「坊主、必死でやりくり」です。これが、今どきのお寺のリアルな姿なのです。