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2025.11.26お知らせ
ビジネスを展開する上でマーケティングは非常に重要な要素となります。しかし、マーケティングと言っても多種多様で、何から実施すればよいのかという「優先順位」を決めることは決して簡単ではありません。
ましてや、天明寺のように資金も人手も潤沢ではない寺院にとっては、「あれもこれも」はできません。限られた時間とお金の中で、どの施策から手をつけるかが運命の分かれ道になります。天明寺は廃寺寸前の状態から、檀信徒数が3000を超える状態にまで復活を遂げることができました。多くの寺院が苦境に立たされている現代において、このようなケースはそれほど多くはないでしょう。
今回は、天明寺が実施したマーケティングについて時系列順で紹介します。寺院経営に限らず、顧客の獲得や販売戦略に悩まれている企業や事業主様にとっても、今後のヒントとなるかもしれません。「小さなお寺がどうやってここまで来たのか」という一つの実例として、最後までお付き合いいただければ嬉しく思います。目次
- YouTubeよりも先に「ポスティング」に力を入れた
- マーケティングの根本にあるのは「利他の精神」
- YouTubeの正解にたどり着くまで、試行錯誤の日々
- 大幅リニューアルで登録者数10万人を突破
- 資金や計画性を公開していく「透明性マーケティング」が成功のカギ
YouTubeよりも先に「ポスティング」に力を入れた

マーケティングと言うと、YouTubeやSNSがまず頭に浮かぶという人もいらっしゃるのではないでしょうか。実際に、YouTubeやSNSは多くの企業が現在、力を入れている分野ですし、成功事例もたくさん紹介されています。
しかし、天明寺ではYouTubeやSNSに力を入れ始めたのはかなり後からになります。つまり、スタート地点は「ネット」ではなく、もっと泥臭いところでした。YouTubeやSNSの優先度は低かったということになりますが、結果を見ると、力を入れる順序としては間違っていなかったという実感があります。
天明寺で最初に実施したマーケティング手法はポスティングです。厳密に言うならば、「ポスティングを効果的に行うための体制づくり」となります。チラシを配る前に、「誰に届けるのか」をはっきりさせる作業が必要だったからです。
お寺は檀家さんによって支えられており、どこのお寺でも檀家さんのお名前や住所、電話番号などの情報があります。しかし、檀家さんの情報が乱雑に管理されているケースもあり、私が住職になる前の天明寺も御多分に漏れず、檀家名簿が作成されていない! という状況でした。
まず私は、檀家さんの情報を手書きすることから始めました。現在では当たり前のように使っているパソコンすら持っていなかったのです。「名簿を作ろう」と思っても、そもそも打ち込む機械がない。そこで、まずパソコンをお寺の事務所に導入する、というところから始めました。
その後、タイピングの操作が得意な友人に檀信徒名簿の入力をお願いするなど、網羅的に管理する体制を作りました。また天明寺に訪れた方にも、できるだけ名前や住所をお聞きするということも同時に意識的に実施していきました。つまり、「顧客リスト」の管理・収集を徹底したのです。
もちろん、近年では個人情報に関する意識はとても高くなっており、新たに収集をするのは難しくなってきております。その上で工夫ができる分野でもあると思っています。
例えば現在、天明寺ではアンケートに答えて情報を記入して頂いた方には天明寺の漬物をプレゼントするといった方法を取っています。ただ「書いてください」ではなく、感謝の印としてささやかな品をお渡しする。そうすることで、初めて天明寺に来られた方も安心して情報を記入してくださいますし、お互いに気持ちの良いやり取りが生まれます。
ネットを活用すればまだ出会っていない遠くの方にも情報を届けることができます。一方で、近くの方と関係性を深める場合には、必ずしもネットが最適ではありません。顔が見える距離感、人柄が伝わる関係では、紙のチラシや直接の会話が大きな力を持ちます。「顧客リスト」を作ることは、どのような展開をするにしても非常に強い武器になります。これは寺院でも企業でも、変わらない本質だと感じています。YouTube:天明寺 公式YouTubeチャンネル
YouTube:丸儲け住職 -ブッダの教えで人生好転-
Instagram:@tenmyoji.jp
マーケティングの根本にあるのは「利他の精神」

当時はコンビニでチラシを印刷して、私自身が一件一件ポスティングしていました。純粋に資金がなかったという理由もありますが、とにかく檀家さんと直接お会いしてお話を聞く時間を少しでも多く作りたいという思いが強くありました。
私はマーケティングの根本にあるのは、利他の精神だと思っています。言うならば「利他マーケティング」です。こちらの売りたいものを一方的に押し付けるのではなく、「この方は今、何に困っているのだろう」「自分にできることはないだろうか」と考えることから始まるマーケティングです。
一人の相談、一件の法要を大切にすることで檀家さんも心を開いて話をしてくれます。他人を助ける行為を徹底することで、はじめて檀家さんの本心に触れることができるのです。そして檀家さんの生の声には、「こんなサービスがあったら嬉しい」「こうしてもらえると助かる」というメッセージが含まれています。
例えば、天明寺では遺骨の預かりをしております。これは実は、業界内では非常識ではありましたが、檀家さんから話を聞くことでニーズがあることを知りました。「まだお墓を建てる状況ではないが、家に置いておくのも不安だ」という声は、実際に訪問し、お茶を飲みながら話をしている時に出てきたものです。
私は檀家さんのお困りごとを解決するために寺院があると思っています。非常識か常識かの二択にこだわることがなく、“目の前の方の役に立つかどうか”という基準でサービスとして取り入れて今に至ります。
直接声を聞くことによって、需要のあるサービスが生まれることは少なくないと、私は考えております。机の上で考えた「こういうサービスが儲かりそうだ」ではなく、「こういうことで困っている人が目の前にいる」というところからスタートするのが、天明寺のやり方です。YouTubeの正解にたどり着くまで、試行錯誤の日々

YouTubeやSNSでの展開については、檀家さんから直接声を聞くことができる体制ができた後に始めました。そして、始めるきっかけもコロナ禍で「天明寺に行きたいけれど行けない」という声があったことです。「だったら、こちらから画面を通じて皆さんのところへ行こう」と考えました。
実は、YouTubeをはじめとするSNSマーケティングではさまざまな試行錯誤がありました。当初、開設した天明寺YouTubeチャンネルでは法要のみを配信していましたが、当然たくさんの再生数は期待できません。
もっと多くの方に見ていただきたいという思いから、法話や仏教の考え方などの配信も試みました。しかし思うようには再生数は伸びませんでした。こちらとしては「良い話」「役立つ話」をしているつもりでも、視聴者に届いていなければ意味がありません。ここでもやはり、「一方通行の発信の限界」を感じました。Facebookでは寺院経営に関する講座のイベント企画などもしました。天明寺のV字回復は寺院だけでなく中小企業などの参考になるのではという思いがありましたが、こちらも集客として伸び悩みました。「これは本当に求められている内容なのだろうか?」と、自分に問い直すきっかけになりました。

いくつかの失敗を経て、「ではどのような内容であれば多くの方に見てもらえるのだろうか」と研究をしました。そしてYouTube全体の市場を観察した結果、ひとつの答えにたどり着きました。
それは、「昔おばあちゃんから聞かされて、どこか記憶の片隅に残っている“宗教や風習の話”」や「開運・霊・運気」といったスピリチュアルな情報に、多くの方が強い関心を持っているという事実でした。Facebook:鈴木辨望
大幅リニューアルで登録者数10万人を突破

2024年9月からYouTubeの内容を大幅にリニューアルして、スピリチュアルに寄せたお話を中心に配信するようにしました。
「【要注意】玄関を開けた時にコレが見えてしまう家は金運が逃げます。」 「【衝撃】親指が反る人は今すぐ見て!親指の反り方で分かるあなたの意思と運命について」 「【開運】名前にあると運気が上がる漢字TOP10!〇〇が入っている人は金運最強」などがチャンネル内で人気の動画となっています。タイトルだけでも、従来のお寺のイメージである「法要」や「説話」とは内容が大きく違うことがわかるかと思います。
リニューアル当時のチャンネル登録者数は2000人程度でしたが、現在では10.5万人を超える規模にまで成長しています。これは、単に話題性を追いかけた結果ではなく、「仏教の教え」と「現代人の関心事」をうまくつなぎ合わせた結果だと感じています。
YouTube市場を研究した結果、かつておばあちゃんから耳にしたようなお寺の文化や葬儀の慣習といった、どこかでうっすら聞いたような話に興味を持たれるのではないか、と気づいたのです。「怖いけれど知りたい」「信じるかどうかは別として聞いてみたい」といった、人の感情の部分にアプローチする必要がありました。
研究というと仰々しいですが、要は「声を聞く」ということだと思います。もちろんYouTubeやSNSでは、檀家さんと対面のように直接声を聞くことはできません。しかし、「YouTubeやSNSで何が求められているのかを知ること」は、檀家さんからお話を聞くのと共通する姿勢があります。コメント欄や再生回数、視聴維持率といった“数字の声”を真剣に受け止めることが大切だと学びました。
私自身も試行錯誤をしましたが、リアルでもネットでも「声を聞くことの重要性」を改めて深く認識しました。結局のところ、相手をよく見る、よく聞くという原点は、どの媒体になっても変わらないのだと思います。資金や計画性を公開していく「透明性マーケティング」が成功のカギ

このように天明寺ではまず、檀家さんとの信頼関係を築くためのポスティングやイベント開催からはじまり、徐々にYouTubeやSNSでの発信も増やしていく方法で展開してきました。
その上で、順序だけでなく「内容」が成否を分けるのは言うまでもありません。どれだけ多く発信しても、中身が信頼されなければ意味がありません。
内容という点で見ると、天明寺では「透明性マーケティング」を常に意識しています。「透明性マーケティング」とは、資金や計画などの情報を積極的に公開していくということです。
例えば、今まさに建設中の新たなホールでは、図面の段階から檀家さんに共有をして計画を進めました。知らない間に新しい建物ができていたのではなく、ゼロの段階から関わっていることで親近感も沸きます。このホールでは直接的に働きかけをしたり、寄付を求めていないにもかかわらず、4000万円がホール建設費用のお布施として集まるなど、皆様が完成を心待ちにしてくれています。
天明寺は廃寺寸前でしたが、そこから活気を取り戻し、少しずつ寺院として大きくなってきています。この成長は檀家さんにとっても嬉しいことで、さらに「一緒に作り上げていく仲間」となれば、その感動もひとしおです。
このような「仲間」になるためには、情報を開示することは必要不可欠です。何にお金を使っているのかわからない、今後どういう計画があるのかわからないでは、とても「仲間」とは思ってもらえません。逆に、良いことも大変なことも含めて、できるだけ正直に共有することで、「応援したい」「自分も関わりたい」という気持ちが生まれてきます。
仲間を作ることは、どのような活動においても重要です。寺院経営に限らず、企業経営、地域活動、どれも同じです。天明寺の根幹を支える「透明性マーケティング」の姿勢が、皆様の取り組みのヒントとなるようでしたら大変嬉しく思います。