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2026.03.27お知らせ
時折、「天明寺のようなV字回復は、他のお寺では無理ではないか」と、指摘を受けることがあります。結論を先に述べます。
天明寺の運営ノウハウは、多くのお寺で生かせる点が多々あると私は考えています。運営が厳しいお寺であっても、適切な手順を踏めば立て直すことは十分可能です。
その実践として、私は他のお寺からの相談や悩み事をお聞きしています。今回は、私が関わらせていただいた寺院の再生や運営相談の一例を紹介します。
目次
- 住職でも未経験者多数、本堂の新築
- 檀家さんあってのお寺が大前提
- 寺院運営で直面する正解のない問題
- 帳簿なし、単発のイベント開催……壊滅的なお寺運営
- 99%の住職は経営を知らない
住職でも未経験者多数、本堂の新築

東京都江戸川区に、宝林寺というお寺があります。宝林寺では、本堂をはじめとした重要な建物の老朽化が著しく、地盤沈下の影響で床面が傾き、ビー玉を置けばコロコロと転がっていくような状況でした。
そこで私は、下記にある各種建物の新築および再建に、計画段階から関わらせていただくことになりました。
- 本堂
- 庫裏(くり:僧侶の居住や調理を行う建物)
- 客殿(きゃくでん:来客対応や面会のための建物)
お寺の建築では、まず寺院建築に対応できる業者を見つけることが必要です。私はこれまで墓地の新設や建物修繕などを経験してきた中で、設計士や大工とのつながりを築いてきました。そのため、宝林寺にも私が信頼する業者をご紹介しました。

しかし、業者を紹介すればそれで終わりではありません。本堂づくりでは、下記のような運営面から見た重要な要素が数多くあります。
- 日常的な使い勝手
- 多くの人が集まっても安心できる間取り
- 法要時のスムーズな動線
そこで私は打ち合わせに同席し、これまでの知見を生かして具体的な助言を行いました。
というのも、住職であっても本堂の新築を一度も経験したことがない方は少なくありません。また、寺院専門の建設業者でない限り、設計士や大工にとっても寺院建築に携わる機会はそれほど多くないのが実情です。
だからこそ、実際の寺院運営を踏まえた視点での関与が重要になるのです。
檀家さんあってのお寺が大前提

もちろん、建築の実務的な調整だけを行えばよいわけではありません。日々のお寺の運営は、何よりも檀家さんがいてこそ成り立ちます。
そのため、本堂の新築においても檀家さんや総代さんの理解を得ることが必要不可欠です。この点については、説明会を開催し、段階的に理解を得ていく方法が確実です。
本堂の新築や再建では大きなお金が動きます。多くの場合、檀家さんに寄付を募らなければ、宝林寺のような建設プロジェクトは実現できません。
ここで重要なのは、住職や総代が「一緒にやりましょう」という姿勢で建設計画に参画することです。
この姿勢によって、檀家さんだけでなく地域の関係者にも広く呼びかけ、「みんなで作り上げる」という意識を共有することができます。

また、お寺そのものが「大きな建物があり、誰でも集まれますよ」とメッセージを発信できる場所であることも重要です。
人が集まりやすい空間があってこそ、お寺は活性化していきます。住職のためだけに行っていると思われてしまえば、どれほど立派なお堂が建ったとしても意味はありません。そのうえで、最終的には住職が責任を持つ姿勢も求められます。
私自身、天明寺の庫裏や客殿を建設する際には、「自分で借金をしてでもやる」と檀家さんにお話ししたことがあります。「お寺はみんなのもの」という思いを本気で示して、初めて協力者が集まってくるのです。
寺院運営で直面する正解のない問題

宝林寺では建物の新築に関わらせていただきましたが、このような大規模案件以外にも、さまざまな運営相談を受けています。
最近多いのが墓地運営や永代供養の運営に関するものです。墓地や永代供養には複数の形態があり、大きく「お寺主導」と「業者主導」に分けられます。
お寺主導の場合、契約者探しから各種手続き、トラブル対応、日常管理まで、すべてをお寺で担う必要があります。負担は大きいものの、長期的には檀家さんとの信頼関係を築きやすいという大きなメリットがあります。
一方、業者主導の場合は、実務上の労力の多くをお寺が負担せずに済みます。率直に言って、どちらが絶対に良いとは一概には言えません。
近年では墓じまいの流れもあり、お墓自体が減少していくことが予測されます。また地域的な縁も薄くなってきています。つまり、お寺主導の墓地運営では、労力にコストが見合わなくなる可能性もあります。
実際に相談を受けた若い住職のケースでは、諸条件を踏まえてお寺主導を勧めました。しかし、すべてのお寺に当てはまるわけではありません。
私は、このようなケースバイケースで正解が決まらない問題についても相談に乗っています。
帳簿なし、単発のイベント開催……壊滅的なお寺運営

ここまで紹介した新築手順や檀家さんの巻き込みは、比較的前向きな相談事例です。
しかし実際には、資金繰りで困っているお寺は数多くあります。中には、「帳簿すら作っていない」「入ったお金をそのまま使うどんぶり勘定」といった状態で運営されているケースもあります。
また、お寺を知ってもらうためにホームページ制作からようやく着手する段階であったり、イベントを開催しても単発色の強いものばかりで、参加者との継続的な関係が生まれにくいケースも少なくありません。
イベントを開催すること自体が目的になってしまっているのです。お寺業界では、一般企業では考えにくい金銭管理が行われていたり、商業イベントと比べると粗が目立つ催しになってしまっていたりする現状があります。
ある意味で、お寺から人が離れてしまうのは、お寺側の責任と見られても仕方がない面があると言えるでしょう。
99%の住職は経営を知らない

しかし、このような状況に陥ってしまうのには原因があるとも感じています。それは、僧侶養成の過程で経営を体系的に学ぶ機会がほとんどないという現実です。
私たちは各宗派で専門教育と修行を積み、僧侶資格を得ます。ですが、そこで学ぶのは礼儀や作法、お経の読み方が中心です。
その後、それぞれが住職として寺院運営を担うことになります。私は、99%の住職は経営を知らないと言っても過言ではないと思っています。
本来、礼儀や作法がしっかりしていれば、お寺も健全に運営できるのが理想でしょう。とはいえ現実には、それだけでは運営がままならなくなってきています。
もちろん、お寺が経営一辺倒になり、お金儲けだけに注力してしまえば、寺院の存在意義が揺らいでしまいます。しかし一方で、経営の知識を全く持たずに運営が傾くことも、また大きな問題です。
お寺運営のさじ加減は非常に難しいものです。それでも、今後もお寺が人々と共に在り続けるためには、経営の観点を学ぶことは避けて通れないと考えています。
厳しい時代だからこそ、悩みを抱えながらも必死に頑張っている住職の方々と、これからも協力していきたいと思っています。