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2025.06.09お知らせ
寺院コンサル事業の登場
かつては地域共同体の中心にあった寺院も、人口減少と都市集中化の波の中で存在意義が揺らぎつつあります。檀家制度の形骸化に伴い葬儀や法事の依頼も減少し、寺院そのものの存続が問われる時代となってきました。
多くの寺院が生き残りをかけて経営体質の見直しに着手し始めている今、寺院向けのコンサルティングや支援サービスが注目を集めています。
例えば「株式会社エルターナル」は、永代供養墓や樹木葬の導入支援を中心に、寺院が現代のニーズに応えるための包括的な支援を提供しています。同社は霊園や寺院と提携し、区画の整備、案内看板やパンフレットの制作、専用ホームページの立ち上げなど、顧客獲得から契約締結までの導線設計を一括で担っています。
「株式会社エータイ」もまた、同じように永代供養の販売代行事業を展開しています。墓の建立から集客、販売管理などの一連の業務をサポート。さらに、墓地・納骨堂の管理や契約履歴を全てクラウド上で一元管理できるシステムで、書類作成から決済に至るまでデジタル化することで、事務作業にかかる手間を大幅に削減できるようです。
こうした支援を受けることで、収益性の高い仕組みを構築できる寺院もあります。しかし実際には、それらのサービスを導入できるのは資金的に体力を持った寺院に限られ、地方の小規模な寺院には届いていません。永代供養の導入や御朱印ブームのような一過性の集客策も効果は一時的で、長期的な支援体制の構築には繋っていないのが現状なのです。

目次
- 寺院コンサル事業の登場
- 永代供養ブームと一時的集客の限界
- 天明寺が実践する「本質的な改善」
- 寺院コンサルの本質的役割
永代供養ブームと一時的集客の限界

たしかに「永代供養」は寺院の新たな収入源として注目されています。遺族や継承者に代わって寺院が一定期間または永続的に遺骨を供養し続ける仕組みで、墓地継承者がいない、あるいは子どもに負担をかけたくないという思いから拡大しています。特に都市部では、2000年代前半から核家族化や少子化に伴い「無縁墓」の問題が顕在化し、それに対応する形で永代供養墓や樹木葬が急速に広がってきました。
しかし地方であればあるほど、寺院側には「穢れ」を意識して遺骨を預かることへの心理的な抵抗感が根強く残っていました。さらに、永代供養のための専用施設やスペースを新たに確保すること自体が難しいという物理的な制約もありました。実際、群馬県では2000年代後半までは永代供養を導入している寺院は実質的にゼロに近い状況だったほどです。
そんな中、天明寺では平成18年頃から永代供養を導入し、お骨の行き場を失った遺族から大きな支持を得ました。収入源の1つとして認識されるようになり、現在では群馬県内でも多くの寺院が永代供養を導入するようになっています。
とはいえ、制度自体の理解が不十分な寺院も多く、料金体系や契約の手続き、広告宣伝の方法に困っている住職も少なくありません。そこに先ほど挙げたような営業代行業者が入り込むようなビジネスが一般化しつつあります。
代行業者の参入は、目先のキャッシュを得るには効果的な手段かもしれません。しかし、寺院経営の持続性という観点では問題が残ります。過去には、東京都足立区のある寺院で墓石業者と住職の間でトラブルが生じ、住職が殺害されるという事件が発生したケースがあります。事件の背景には、寺院と繋がりのない顧客の墓を建てようとした墓石業者に住職が抵抗したことが原因だったそうです。金儲け主義に傾きすぎた結果、宗教施設としての本来の役割を見失ってしまう危険性もあるのです。
天明寺が実践する「本質的な改善」

天明寺では、地方に多く見られる経営難に陥った寺院を対象に、現場の実情に即したコンサルティング支援を行っています。そうした支援のなかで浮かび上がってきた問題は「杜撰な顧客管理」と「家族経営による限界」の2点。
まず顧客管理の面では、現在のようにデジタル技術が発達している時代であるにもかかわらず、多くの寺院では檀信徒の名簿を手書きで管理していることが多い。住所変更や法事の予定があるたび、台帳を見ながら手作業で情報を更新したり、郵送物の宛名を書いたりと、業務に膨大な時間と労力がかかっています。これにより、本来は法要や仏教活動に集中すべき住職が、事務作業に追われているという本末転倒な状況が生まれているのです。
もう一つの大きな課題は、住職と家族だけで運営されているという、いわば「家内制手工業」的な経営構造です。経費を抑えようとして住職自身が全ての業務ーー法要の執行、葬儀や法事の段取り、顧客管理や会計業務に至るまでーーを一人で担っているケースも珍しくありません。でも、このような働き方には限界がある。突発的な対応が続けば心身の負担も大きくなり、長期的な経営の安定性にも影響を与えてしまいます。

そこで天明寺では、まずは「顧客情報のデータベース化」を強く勧めています。Excelなどの表計算ソフトを活用することで、名簿の管理だけでなく案内状の自動印刷や一括送信といった作業効率の改善が可能になります。また「業務の分業化」と「人的リソースの確保」も推進しています。天明寺でも9時〜17時の勤務が可能な職員を雇用し、事務作業を中心に請け負ってもらうことで、私は宗教的役割に集中できる環境を整えることができています。
しかし、人件費の観点から従業員を雇うことに抵抗する住職が多いのも事実。その背景には、寺院の収益構造にあります。例えば、群馬県では「檀家数300軒」が寺院経営の安定ラインとされています。一見すると十分な規模に思えるかもしれませんが、実際の年間収入を具体的に試算してみると、その厳しさが浮かび上がってきます。
- 葬式収入:18件(300×6%)×30〜50万円=540〜900万円
- 法事収入:90件(300×30%)×3〜5万円=270〜450万円
- 護寺会費:300件×5千〜1万円=150〜300万円
- イベントや御朱印など:数十万円
これらを全て合算しても、年間の収入は1,500万円〜1,800万円程度。そこから寺院の維持管理費、建物の修繕費、光熱費などを引けば、手元に残る金額は限られてきます。実際、客単価は6万円前後と意外にも少なく、「坊主丸儲け」と言われるような俗説とは大きくかけ離れているのが現実です。
寺院コンサルの本質的役割

宗教法人は基本的に非課税である一方、銀行からの融資を受けにくいという大きなハンデを抱えています。そのため、自然災害や事故による突発的な修繕費用が必要であっても、全て自己資金で対応しなければならないのです。
こうした背景を踏まえ、天明寺では「貯蓄体質の強化」も強調しています。無駄な出費を削減し、将来の備えを整えれば銀行からの信頼性も高まりますよね。実際、預金額が多ければ融資を受けられるケースもあるため、計画的な資金管理は不可欠です。
加えて、見落とされがちなのが「年金制度」です。住職や職員が事実上「個人事業主」として扱われ、国民健康保険や国民年金にしか入っていないケースが大半です。この状態では老後の年金や医療保障が十分とは言えず、それを補うために高額な民間保険に頼らざるを得ないという非効率な状況に陥っています。
そのため私は厚生年金制度に加入することを推奨しています。これにより将来への安心感が増すだけでなく、雇用環境の整備にも繋がるので、寺院全体の経営体力が底上げされるという大きな利点があると考えています。
寺院コンサルの本質は目先の売上を上げることではなく、寺院が本来の役割を果たし続けるための持続可能な経営を実現することにあるのではないでしょうか。天明寺が重視しているのは、派手なイベントや流行に沿った集客ではなく、「地域との信頼関係の再構築」と「現場に根ざした仕組みづくり」です。
一部の集客のみを業者に委託する場合はアリかもしれませんが、ただ仲介してモノを売るだけでは寺院は成功しません。コンサルとは、寺院に金儲けを教えるものではなく、次の世代へ信仰の場を繋いでいくための支援なのです。