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2025.10.23お知らせ
寺院を安定して運営するには、人の手伝いは必要不可欠です。寺院によっては全てを自分一人でやろうとする住職もいます。しかし、一人でできることにはどうしても限界があります。
現在、天明寺では定期・不定期を合わせて10人のスタッフが寺院運営に関わっています。
今回は、私が寺院運営をする上で、どのように人に助けてもらっているのかを紹介します。頼み方が分からない、何をお願いすればよいか見当がつかないという悩みにもお答えします。
この内容は寺院運営だけでなく、個人事業や自営業者、事業経営の方にも役立つはずです。
目次
- 天明寺の経営は私がひとりで全てやっていた
- はじめて“お願いした日”――意識が変わった瞬間
- 初めて仕事を任せるなら、まずは身内から
- お願いする相手は、まずは家族や友人から
- お寺の仕事は、法事や葬儀だけではない
- 仕事を細分化することで、人に任せられる業務が見えてくる
- 細分化によって生まれるもの
- 経営が軌道に乗った理由は、「指示を出さなくていい仕組み」を作ったから
- 家族経営が一般的なお寺などの経営は、どう組織化すれば良いのか
- 家族が業務を担うことのデメリット
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天明寺の経営は私がひとりで全てやっていた

冒頭だけ読むと、「私は昔から人に頼るのが上手だった」と感じた方もいるかもしれません。でも実際のところ、私は元々何でも自分ひとりで対応するタイプで、そのやり方に疑問すらありませんでした。
以前の投稿でも触れましたが、墓地分譲の広告を出したときも、完全にひとりで動きました。

まず、ホームページから天明寺の仮の地図を印刷。それをカッターで切って、別の紙に貼り付け、一番上に筆で大きく「墓地分譲中」と書きました。乾いたらコンビニで何十枚もコピーし、それを持って地域を区切りながら一軒一軒ポストに投函しました。
資金はまったくない。けれども時間はある。平成18年、最初の墓地造成のとき、考えた末に「じゃあ自分でやるか」とこの方法を選びました。
今では広告会社にお願いしたり、新聞折込に出すこともできますが、当時はそんな余裕も発想もなかったのです。
他にも、当たり前のようにやっていたことがあります。電話番です。天明寺にかかってきた電話は、どこにいても自分の携帯に転送される仕組みにしていました。本堂にはまだお風呂もなく、トイレも汲み取り式で住める環境ではありませんでしたが、電話だけは切らさないようにしていたのです。当時はまだ「お寺の電話が携帯に転送されているなんてどうなの?」と懐疑的に見られることもありました。
ただ、不思議なことに、お寺にいるときに限って電話は鳴らないのに、お風呂に入っているときや、外で食事している時に限って電話がかかってくるのです。葬儀社や石材店、檀家さん、広告を見た一般の方など、タイミングを見計らったように(笑)。
はじめて“お願いした日”――意識が変わった瞬間

転機はある日突然やってきました。天明寺への来客と法事の予定が、同じ時間に重なってしまったのです。当然、私の身体は一つ。どう頑張っても両方には対応できません。悩んだ末、母にお茶出しと来客の対応を頼みました。
結果、何の問題もなく、お茶出しと来客の対応も法事も無事に終わりました。そしてその時、はっきりと感じたのです。「あ、自分の手が空いた。自分がやらなくてもいいことって、人に任せていいんだ」と。
もちろん、人に任せることに気づいたからといって急に簡単になるわけではありません。何を任せるのか、誰に任せるのか、どこまで任せていいのか。身内であれば頼みやすいですが、そうでない場合には報酬も必要ですし、責任も発生します。
それでも、「全部自分で抱え込まなくていい」と気づけたこと。これが、天明寺を立て直していく上で、本当に大きな一歩でした。
初めて仕事を任せるなら、まずは身内から

私は、人に何かをお願いする時の始め方としては、「少しずつ、身内から」が良いと思っています。いきなり大きな仕事や長時間の依頼をする必要はありません。土日の数時間だけ手伝ってもらう。それだけでも十分です。
その中で、自分がやらなくてもよいこと、手を離しても問題のない作業を見つけて、来てくれた人にお願いしていきます。
たとえば、手紙の内容を書く作業は、自分でなければできないかもしれません。しかし、書いた手紙を封筒に入れて切手を貼り、郵送する作業は自分でなくてもできることです。
このように仕事を分けて考える、細分化することで、誰かにお願いできる業務が見えてきます。
お願いする相手は、まずは家族や友人から

私はまず、家族や親族、友人に依頼しました。いきなり外部の人や業者に頼むのではなく、信頼関係のある人から始める方が安心できるからです。
親族だけでなく、小学校・中学校の同級生に手伝いをお願いしたこともあります。「少し手伝ってくれない?」という小さなお願いから始め、そこから少しずつ協力してくれる人を増やしていきました。
お願いする上で大切なのは、自分の手の内を明かすこと、そして定期的にコミュニケーションをとることだと思います。そのおかげで、お寺に対する理解や認知も高まりました。
実際、親戚や友人であっても、お寺の仕事がどんな内容なのかは知りません。ある友人などは、手伝ったあとに「お寺って、意外とすることがたくさんあるんだね」と驚いていました。
お寺の仕事は、法事や葬儀だけではない

一般的には「お寺は法事や葬儀をしているところ」というイメージがあります。しかし実際にはそうではなく、日常的には次のような仕事もあります。
- 電話での相談対応
- 来客の対応・案内
- 台所やトイレ、本堂や境内の掃除
- 仏具の準備や片付け
- 位牌や塔婆を書くなどの専門的な作業
こういった業務は地味ですが、確実に存在し、しかも毎日発生します。実際、塔婆を書いている最中にお客さんが来て手が止まることもあれば、深刻な相談を受けている途中で電話が鳴ることもあり、一人では抱えきれない状況が突然やってくるのです。
仕事を細分化することで、人に任せられる業務が見えてくる

先ほどの「手紙を書く」「手紙を発送する」という例のように、仕事を一つの塊として考えるのではなく、小さな作業に分ける、細分化することが大切です。この考え方は手紙に限らず、すべての業務に応用できます。どんな仕事にも、自分がやらなくてもよい部分があります。そこを人にお願いすることで、自分の時間と労力を本当に集中すべきことに向けられます。
来客対応の場合など、お客様と直接お話しするのは住職でなければできない場面もあるでしょう。しかし、
- お茶を出す
- 資料を印刷しておく
- 部屋の掃除や席の準備
などは、自分ではなくてもできる仕事です。
イベント運営の場合、行事の当日の進行や判断は住職でないとできないかもしれません。ですが、
- 必要な資材の買い出し
- 参加者リストの作成
- 経費の計算や支払いの管理
こういった作業は他の人にお願いできます。
細分化によって生まれるもの

仕事を最初から「全部住職が自分でやる」と決めてしまうと、人に頼める部分が見えなくなります。けれども、仕事を分けて考えることで、
- 自分がやらなくても良い仕事
- 他の人に頼めば先に進む仕事
- 自分だからこそ集中して向き合うべき仕事
が、自然と見えてきます。そして、任せられる部分を人にお願いすることで、自分は本来取り組むべき仕事に集中できるのです。
人へのお願いが軌道に乗ってくると、親族や友人といった身内だけでは手が足りなくなってきます。すると、求人を出して人を募る必要が生じますが、このときには注意が必要だと私は思っています。
当初の私は、「手伝ってくれるなら、どんな人でもいい」と考えていました。しかし実際には、寺院運営に共感や賛同がない人では、中長期的に信頼関係を築いて、一緒に寺を支えてもらうことは難しいということに気づきました。
求人などで人を募る際には、お寺のビジョンや目的を伝えた上で、「一緒にやりたい」と思ってくれる人と関係を築くことが大切です。実際の例として、天明寺のイベントに参加したことをきっかけに求人を知り、働くようになった方がいます。この方は天明寺に対する理解や愛情が深く、日々の運営でも大きく貢献してくださっています。
現在では、天明寺が配信しているYouTubeやInstagramの投稿にも積極的に関わり、普段から動画や投稿内容を確認してくれます。
「こういう投稿はどうですか?」「前回の動画のここが良かったです」など、感想や提案も伝えてくれます。社員が自ら動き、考え、行動してくれるというのは本当にありがたいことです。


天明寺《てんみょうじ》群馬県前橋市にある自然に囲まれたお寺です。 正式名称は「太子山 神通院 天明寺(たいしさん じんつういん てんみょうじ)」www.youtube.com
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経営が軌道に乗った理由は、「指示を出さなくていい仕組み」を作ったから

人に定期的に仕事をお願いするようになると、その人の得意な分野が見えてきます。文章が得意な人、パソコンなどデジタルに強い人、接客が上手で安心して任せられる人など、実にさまざまです。得意なことは、その人にどんどん任せる。そうして、それぞれの分野における“キーパーソン”を決めていきました。
キーパーソンが決まると、日常の仕事では私が一つ一つ指示を出す必要はほとんどなくなります。現在の天明寺では、メールやLINEで報告が届き、緊急の案件だけ電話が入るという仕組みになっています。
もちろん、人にお願いするタイミングの見極めも大切です。事業の規模や収益だけでは判断できない部分もあり、最終的には事業主自身の判断で決めることになります。タイミングによっては、「自分でやったほうが合理的」という場合もあるでしょう。
しかし、人に任せることで、自分は“自分にしかできない業務”に集中できるようになるという点は間違いありません。この内容が雇用や組織づくりに悩んでいる方の参考になれば嬉しく思います。
家族経営が一般的なお寺などの経営は、どう組織化すれば良いのか

老舗の蕎麦屋さんや、伝統産業であるダルマ屋さんなど、家庭と職場が一体化しているところは少なくありません。お寺もその一つと言えるでしょう。実際、多くのお寺では檀信徒との付き合いも家族ぐるみで行われており、それ自体はとても良い人間関係を築く一つの形だと思います。
しかし一方で、お寺には本当にさまざまな人がやってきます。早朝でも深夜でも遠慮なく電話をかけてくる方もいます。
実は、私が天明寺に入った当初から、私は寺には住んでいませんでした。理由は簡単で、当時の本堂にはお風呂もトイレもなく、とても生活できる環境ではなかったからです。その後も住むことはせず、現在の庫裏(住職家族の住まい)は本堂からおよそ200メートル離れた護摩堂の敷地内に建てられています。
庫裏を建てる前、結婚前は実家から通い、結婚してからも、しばらくはアパートから天明寺に通っていました。
妻も、子どもが生まれるまでは結婚前の仕事を続けていました。出産後は、時々事務作業を手伝ってもらったことはありますが、ほとんど寺の業務には関わっていません。
家族が業務を担うことのデメリット

お寺にかかってくる電話対応や来客の応対は、できる限り事務員に任せることが大切だと考えています。なぜなら、家事や育児と並行しながらの「家庭の延長としての仕事」には限界があるからです。もし妻が事務員として対応していたとしたら、どうしても
- 家事の合間に電話を取る
- 子どもを見ながら来客対応をする
といった形になってしまいます。もちろん、それを完璧にこなす方もいます。ですが、現実にはお風呂やトイレに入っているときに電話が鳴る、留守にしている時に突然お客様が来るといったことが起こります。お寺は不特定多数の人が来る場所です。家族の生活空間と業務を混在させると、どうしても対応が疎かになってしまうことがあります。
それならば、しっかり電話対応ができる事務員、来客応対ができるスタッフを置いたほうが安心です。来る側の人も「住職の奥さん、今忙しいかな」と気を遣う必要がなくなります。
事務員が日常的に業務を行うと、まず日常業務のスキルが上がります。さらに、お寺ならではの仏具・仏像・専門用語なども自然と身につきます。住職や関係者が使う用語を理解できることは、寺務において非常に大切です。
また、多くのお寺では年間を通して様々な行事や法要があります。特に大きな法要やイベントの前になると、1ヶ月以上前から準備が始まり、関係者や業者も入り、現場は慌ただしくなります。
私自身、多くのお寺を手伝った経験がありますが、住職が気を遣い、お金を遣い、何とか行事をやりきる。終わるとホッとしてしまう。しかし翌年は反省点を活かせず、同じことを繰り返してしまう。そうした姿も何度も見てきました。
天明寺の場合は違います。日常業務の延長線上に、行事やイベントがあるという考え方です。だから職員も、普段から行事のことを視野に入れて働いています。「行事の前だけ急に集まるお手伝い」よりも、はるかに行事内容に詳しくなります。
- 仏具の扱い
- 掃除の仕方
- 法要の準備と後片付け
- 護摩供(毎月2回以上)や特殊法要の対応
これらも今では従業員が理解し、住職が一から説明しなくても動けるようになっています。現在では、イベントや法要に関しても、緊急な問題が発生したとき以外は、住職である私自身が手を出さなくても進むようになりました。
お寺は「宗教法人」である前に「公益法人」

お寺は宗教法人であると同時に、公益性を持つ存在です。公益法人とは、社会全体の利益になる活動をする法人という意味であり、規模や収入の大小は関係ありません。
つまり、お寺も一般企業と同じように、健全で透明性のある運営が求められるのです。財務・税務だけでなく、人の対応や組織の姿勢も健全であるべきだと思います。人には感情があり、状況によって揺れます。
だからこそ、公益性の高い寺院業務は、安定した体制で行う必要があると考えています。そして、これは、お寺に限らず、個人経営のお店や伝統産業が「組織化・成長」を目指すときにも共通する課題ではないでしょうか。