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2025.11.11お知らせ
これまでも再三ご紹介してきましたように、現在、多くの寺院が消滅の可能性を抱えています。寺院が苦境に立たされている理由はさまざまです。後継者不足、地域社会の高齢化、若い世代の宗教離れ、そして人々の価値観の多様化。どれも深刻な問題です。
しかしその中でも、私が特に大きな課題だと感じているのは「経営面の未整備」です。お寺は宗教法人であり、営利を目的とする企業とは違います。
けれども現実には、光熱費、修繕費、人件費、行事費など、経済活動の上で成り立っているという点では企業となんら変わりません。信仰を守るためにも、経営の安定は欠かせないのです。
誤解を恐れずに言えば、経営の苦手な住職があまりにも多いというのが、私の率直な印象です。修行や法務の経験は豊富でも、「お金をどう扱うか」「お金をどう未来につなぐか」という意識が薄い。その結果、維持費に追われ、発展のチャンスを逃してしまう寺院が少なくありません。
では、どうすればお寺を安定させ、さらに発展させることができるのか。ここでは、私自身の経験も踏まえて、「お金の使い方」や「投資の考え方」の正解をお伝えします。
この考え方は、寺院だけでなく一般企業や個人事業主の方にも共通します。経営に悩む方、また経営を学びたいと思っている方にも、きっと役立つはずです。
目次
- 最初のステップは「お寺の現在地(=財政の地図)」を知ること
- 寺院のお金は4つの要素に分けて考える
- ①大きな支出のために「貯めるお金」
- ②生活に「使うお金」
- ③寺院を発展させ「増やすお金」
- ④いざというときのために「守るお金」
- お金を用途別に管理することは「トラブル回避」につながる
- 檀家さんが「お寺に寄付をとられた」と感じるのは信頼関係がないから
最初のステップは「お寺の現在地(=財政の地図)」を知ること

私が考える最初のステップは、「お寺の現在地(=財政の地図)」を知ることです。「そんなことは当たり前だ」と思う方も多いでしょう。しかし実際のところ、この「当たり前」を正しく実行できている寺院は少数です。
ここでいう「お寺の現在地」とは、単に通帳にいくら入っているかを知ることではありません。財政の地図を描くとは、お寺全体の経済状況を俯瞰して見ることです。
例えば、次のような項目を明確にすることです。
- 銀行口座はいくつあり、それぞれの名義と用途は何か。
- 借入金はどれくらいあるか。返済スケジュールはどうなっているか。
- 収入の内訳(法要・布施・墓地管理費・物販など)はどうか。
- 今後確実に出ていくお金(修繕・更新・保険・税金)はいくらか。
- 一時的に預かっている「使ってはいけないお金」はどれだけあるか。
これらを一つひとつ整理していくと、「今のお寺がどんな状態にあるのか」がはっきり見えてきます。具体例を挙げると、屋根の修繕が急に必要になったときに「そんな費用の準備はない」と慌てるケースがあります。
けれども、屋根の老朽化は“突発的なトラブル”ではなく、“予測できた支出”です。こうした支出を想定していなかった時点で、経営はすでに「受け身」になっているのです。
お寺であれば、耐震工事や建物の老朽化、災害による境内の修繕や整備など、大きな出費は避けられません。ですから、「今いくらあるか」ではなく、「今どんな問題を抱えているか」「今後どんな支出が予想されるか」を把握することが重要です。
お金の数字をただ記録するだけでは意味がありませんし、 エクセルで帳簿をつけているだけで満足してしまうのは危険なのです。数字は地図のようなもので、地図を読む力がなければ方向を見失ってしまいます。
寺院のお金は4つの要素に分けて考える

では、この「財政の地図」をどのように描けばいいのか。私は、寺院運営においてお金を4つに分けて考えることを提案しています。
- 貯めるお金
- 使うお金
- 増やすお金
- 守るお金
この4つを意識して区分することで、今まで見えなかったお金の流れが一気に明確になります。
①大きな支出のために「貯めるお金」

まず1つ目は「貯めるお金」です。これは未来と緊急時のための、寺院の生命線となる資金です。
屋根や外壁の修繕、耐震工事、老朽化した建物の改修など、これらの支出はいつか必ずやってきます。それに備えるためのお金が「貯めるお金」です。
また、将来的に土地を購入する、施設を拡張するなど、未来を見据えた準備資金としても使われます。これは企業でいえば「内部留保」に近い考え方です。簡単に使ってはいけない、まさに“お寺の命綱”となる資金です。
このお金があるかどうかで、経営の安定度はまるで違います。どれだけ壇信徒が多くても、いざという時に資金がなければ、お寺の維持は難しくなってしまうのです。
②生活に「使うお金」

2つ目は「使うお金」です。これは光熱費や日常の消耗品、行事費など、日々の運営に必要となるお金のことです。貯めるお金とは違い、毎月変動する動くお金であり、イメージとしては生活費に近い存在です。
誰しも生活費は支払っているため、この「使うお金」は最も理解しやすい分類でしょう。ただし、多くの寺院がこのお金の扱いを誤っているのも事実です。
よく見られるのが、「収入から経費を払って残った分を住職の給料にする」というやり方です。言い換えれば、「お金が余れば使う」「余らなければ使えない」という行き当たりばったりの経営です。
経費の大部分が「使うお金」に該当し、それと給料しか分類がないというお寺も少なくありません。この考え方では、「貯めるお金」を形成することができず、将来的な修繕や投資の準備もできません。また、これから紹介する“増やすお金”“守るお金”といった発展的な資金計画も立てられません。住職自身の給与も含め、人件費は“経営上の固定費”として明確に区分し、収益の中で無理のない配分を行うことが理想です。
「余ったら給料」ではなく、「計画的に確保する」という意識を持つだけで、経営の安定性は格段に向上します。「貯めるお金」と「使うお金」は、お寺を維持するために欠かせない2本柱です。
どちらもお寺を守るためのお金であり、ここを安定させることが次の増やすお金へとつながる基盤となります。
③寺院を発展させ「増やすお金」

3つ目は「増やすお金」です。このお金こそ、お寺を守るだけでなく育てるための資金です。増やすお金を上手に使うことができれば、お寺を発展させることができます。逆に、この視点がないお寺は衰退していく可能性が高いでしょう。
増やすお金とは、簡単に言えば、未来への投資です。ホームページやSNS、YouTubeなどの広告費、講演会やイベントなど、人が集まる催しをつくるためのお金として使います。



あるいは、新しい取り組みを始める際にも、この増やすお金を活用します。具体的には、情報発信にかかる費用、講演会や地域行事の開催費用、また地域活動を通じて人とお寺が関わるきっかけを生み出すための費用などが挙げられます。
これらはすべて、未来のご縁を育てるための「投資」なのです。ただし、闇雲にお金を使えばいいというわけではありません。勢いでイベントやコンサートを企画しても、単発で終わってしまうケースが多く、最悪の場合は赤字に陥ることもあります。
私の考えでは、収益性を第一に考えるよりも「意味のある使い方か」「継続できるか」に目を向けることが大切です。結果的にこの姿勢が、お寺の発展につながることが多いように思います。
お寺の本質は、建物や行事そのものではなく、「人とのご縁」にあります。人が集まり、関わり続ける理由をつくることが、増やすお金の本来の目的です。
一例を挙げると、一度きりのイベントではなく、毎年恒例の行事に育てる。あるいは、一回の広告ではなく、信頼を積み重ねる情報発信に切り替える。こうした工夫を積み重ねることで、長期的に見れば“利益を増やす”以上の価値を生み出すことができます。
つまり増やすお金とは、ご縁を広げ、信頼を育てるための未来投資です。お寺を守るための費用ではなく、次の世代へつなぐためのお金なのです。
④いざというときのために「守るお金」

4つ目は「守るお金」です。これは住職やスタッフの病気や入院、災害、突発的な修繕、あるいは予定外の行事や出費など、思いがけない出来事に対応するための資金です。
いわば、寺院経営の保険のような存在です。普段は使わなくても、このお金があるだけで、心に大きな安心感をもたらします。守るお金は、毎月の支払いが発生する「使うお金」とは違い、日常的に出入りすることは多くありません。
一方で、建物の修繕や設備の入れ替え、予期せぬ医療費など、「貯めるお金」を動かすほどではないが、すぐに必要になる支出に対応できるのがこの守るお金です。法要の前日に音響設備が壊れたり、行事の日にテントや照明が故障したり、住職が急な病で出仕できなかったりするとき、「守るお金」があれば慌てずに済みます。
逆に、このお金がまったくない状態では、ちょっとしたトラブルにも動揺してしまい、精神的な負担が増してしまいます。私自身の経験からも、この守るお金の存在は、心の安定剤だと感じています。「貯めるお金」は動かしてはいけない命綱の資金ですが、「守るお金」はいざというときに即座に使える防波堤のようなものです。2つのバランスが取れていないと、どれほど財務が安定していても、日常の安心感が損なわれてしまいます。
具体的には、寺院の運営資金のうち、年間支出の1〜3か月分ほどを守るお金として確保しておくと良いでしょう。これだけでも、急な支出への不安がぐっと減り、判断力も落ち着きます。
お金の管理とは単に数字を整えることではなく、心の余裕を整えることでもあります。守るお金がある寺は、動揺せず、冷静に次の一手を打てる。この備えの力こそ、長く続く寺院経営の土台なのです。
前橋のお寺で永代供養| 宗教法人 真言宗 豊山派 太子山 天明寺群馬県前橋市にある天明寺(太子山 神通院 天明寺)の公式サイトです。不動明王をご本尊とし、亡き方の安らぎはもちろん、今 生tenmyoji.jp
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天明寺《てんみょうじ》群馬県前橋市にある自然に囲まれたお寺です。 正式名称は「太子山 神通院 天明寺(たいしさん じんつういん てんみょうじ)」www.youtube.com
お金を用途別に管理することは「トラブル回避」につながる

これら4つの「貯めるお金」「使うお金」「増やすお金」「守るお金」を分けて管理することは、単なる会計整理にとどまりません。これはお寺の「現在地(=財政の地図)」を正確に把握するための第一歩であり、同時に、トラブルを防ぎ、信頼を守る最も確実な方法です。
例えば、檀家さんから本堂の改修費用や仏像の修復のための資金として預かったお金は本来、「使ってはいけないお金」ですが、口座を分けずに一つの財布で管理していると、日常の支出と混ざってしまい、意図せず他の用途に使ってしまうことがあります。そして一度このようなことが起これば、檀家さんや地域の方々からの信頼を失いかねません。
お寺の運営は「信頼」で成り立っています。立派な建物があっても、法要や行事が盛んでも、信頼を失えばその土台は一瞬で崩れます。
逆に言うと、お金の管理の正確さこそが、お寺の信用そのものなのですまた、お金を分けて管理する仕組みを一度つくってしまえば、実際は1つの財布でやりくりするよりもはるかに楽になります。
「貯めるお金」で未来を守り、「使うお金」で日常を維持し、「増やすお金」でご縁を広げ、「守るお金」で不安を取り除く。この4つをきちんと区別することで、どんなお寺でも財務の見通しが格段にクリアになります。
檀家さんが「お寺に寄付をとられた」と感じるのは信頼関係がないから

お寺の重要な財政基盤の一つに、檀家さんや信徒の方々からの寄付があります。しかし現実には、この寄付が思うように集まらず、最終的に寺院を閉じざるを得なくなったという事例も少なくありません。
そこまで至らなくとも、「寄付をお願いしたら嫌な顔をされた」「『寄付をとられた』と誤解された」といったこうした話は決して珍しくないのです。なぜ、このような反応が起こるのか。その根本的な理由は、普段からの信頼関係が築けていないことにあります。
寄付というのは、単なる「お金のお願い」ではありません。日頃からのお付き合いや活動の透明性を通じて、「このお寺なら託しても安心だ」と思ってもらえてこそ、はじめて成立するものです。
普段からお金の管理をしっかり行い、寺だよりやホームページ、SNSなどを通じて、お寺の活動内容や寄付金の使途を報告していれば、寄付のお願いをしても自然と理解していただけます。
しかし、寄付を募るときだけ急に連絡をしたり、財政の現状を隠したままお願いをするようなやり方では、反発されてしまうのも当然のことです。さらに残念なのは、檀家さんから寄付が集まらないからといって、クラウドファンディングに頼る寺院が増えていることです。
もちろん、クラウドファンディング自体は便利な仕組みですが、そこに信頼関係がなければ成功は難しいのが現実です。「目標額を達成したら終わり」ではなく、その後の報告や感謝の伝え方、そして何より「お寺として何を実現したいのか」が明確でなければ、人の心は動きません。私は、クラウドファンディングのようなその場しのぎの資金調達よりも、普段の行いにこそ真の投資価値があると考えています。日々の法要や行事、地域との関わりの中で信頼を積み重ね、必要なときに自然と協力してもらえる関係を築く。
こうした地道な積み重ねこそが、最も確実で、最も健全な“未来への投資”です。寄付とはお願いではなく、信頼の結果としていただくものだということを忘れず、日常の中で信頼を育てていくことが寺院経営の基本なのです。