Column

べんもうコラム

  • 2025.11.08

    ニーズの掘り起こしで見える未来の声

    いまでは「永代供養」を行うお寺もずいぶん増えましたが、20年ほど前は、まだ珍しい存在でした。

    天明寺にいらっしゃったある方が、「お墓がなくて、遺骨をどこに納めたらいいかわからない」と困っておられました。その声に応える形で始まったのが、“本堂での遺骨預かり”です。

    当時の金額は33万円。「1年につき1万円 × 33年=弔い上げまでの供養期間」という考えから決めた数字でした。

    平成18年のころ、天明寺ではご本尊さまの下で遺骨をお預かりしていました。きっかけになったのは、ある方のこんな言葉です。

    「近くのお寺に預かってもらえなかったんです。」

    その瞬間、「預かるってそんなに大変なことなのかな?」と思いましたが、少し時間を置いて気づいたんです。「もしかしたら、こういう悩みを抱えている人って他にもいるんじゃないか?」と。

    そこで私は、当時まだ少なかった永代供養を行っているお寺を全国的にリサーチしてみました。すると、永代供養には大きく二つの形があることが分かりました。

    ひとつは、骨壺のまま安置するタイプ。もうひとつは、散骨して返却しないタイプ。

    天明寺では、その両方の特徴を取り入れながら、「誰でも安心して預けられる供養の形」を整えていきました。

    すると、不思議なことに──これまでご縁のなかった方々や、葬儀社・石材店などからの問い合わせが次々と入るようになったのです。

    さらにそこから見えてきたのが、“一時預かり”という新しいニーズ。

    「まだどうしたらいいかわからない」「夫婦で一緒の場所に入りたい」「いやいや、主人とは別がいい(笑)」

    ……ほんとうに、ご家庭によって事情も気持ちもさまざまなんです。話を聞けば聞くほど、「人の思いって一つの形では収まらないなぁ」と感じました。

    これこそまさに、ニーズの掘り起こしです。永代供養に進む方もいれば、墓地を建てる方もいる。境内の合祀墓に散骨される方もいます。

    だから天明寺では、「まだ決められない」「迷っている」その時間をとても大切にしています。迷っているあいだも、仏さまのそばで安心してご供養ができる。そんな“心の居場所”でありたいと思っています。

    人の考えは、時間とともに変わります。それは、心や環境が変化していくからです。

    だからこそ、お寺は“今の気持ち”に寄り添い、その時々で一番ふさわしい供養の形を一緒に考える――そんな存在でありたいと、私は思っています。

    住職の役割は結局のところ「人の声を聴くこと」に尽きます。その声をビジネスに置き換えれば“顧客の声”ですが、仏教的に言えばそれは「縁の声」です。

    「縁」に導かれて、悩みを持つ人がやってくる。その人の声を受け止めて、どう形にしていくか。それを繰り返すうちに、お寺の活動が自然と広がっていきます。

    これが、“一人の声が未来を変える”ということなんです。

    だから私は、目の前の一人の声を大切にする。

    そこに答えがあるし、それが人との関係性を紡ぐためのヒントも隠れているからです。

    ※YouTube更新しました

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