Column

べんもうコラム

  • 2025.11.25

    葬儀費用とお布施の“見えない構造”

    ── なぜ遺族が損をし、僧侶が疲弊し、葬儀社だけが残るのか ──

    近年、葬儀や火葬料に関するニュースが増えています。

    「火葬料9万円」

    「ネットで見た価格の4倍を請求された」

    「お布施の7割をマージンとして取られた僧侶がいる」

    こうした話は決して特別な事例ではなく、私自身、現場で数えきれないほど耳にしてきました。

    天明寺の住職になって26年。

    毎日、一般の方のご相談を受けてきた立場として、いま葬儀に何が起きているのか、はっきりとお伝えしたいと思います。

    ■1|葬儀社の利益構造は「限界」に来ている

    まず、葬儀の裏側ではこの10年間で大きな変化がありました。

    ◆ 葬儀社の負担は確実に増えている

    ✔ 祭壇・棺・生花の仕入れ値の高騰

    ✔ 会場維持・光熱費の増加

    ✔ 火葬料の大幅値上げ

    ✔ スタッフの人件費の上昇

    ✔ ネット検索による過度な“価格競争”

    ところが葬儀社は、価格を安く見せないと仕事が取れないため、利益はどんどん削られていきます。

    結果として「本来の葬儀費用だけでは利益が出ない」という構造が出来上がってしまったのです。

    そこで一部の葬儀社が次に目を付けたのがお布施です。

    .■2|葬儀社がお布施に手を伸ばし始めた理由

    お布施は本来、

    ・故人への供養の心

    ・僧侶へ感謝の心

    ・施主の善意・布施行

    であり、宗教行為のため非課税です。

    しかし、葬儀社から見ると、これほど“扱いやすい領域”はありません。

    なぜか?

    ◆ お布施は価格が「存在しない」

    ✔ いくら払うべきか誰も知らない

    ✔ 施主は僧侶に聞きにくい

    ✔ 寺院も金額を決めない文化

    ✔ 葬儀社が介入しやすい

    この“曖昧さ”につけこんで、一部の業者は お布施にマージンを上乗せする ようになりました。

    たとえば、「お布施は10万円です」と施主に伝え、僧侶に渡すのは2万5千円。

    差額の7万5千円は葬儀社の取り分というケースも実際に存在します。

    これが、「お布施の商取引化」が始まった大きな理由です。

    ■3|僧侶派遣の仕組みが“歪んだ方向”へ進んでしまった

    本来、僧侶派遣は「菩提寺がない家庭を助けるための仕組み」として誕生したものです。

    しかし、今起きているのは、まったく別の姿です。

    以下、実際に葬儀業界で起きている問題点を詳しく解説します。

    ✔① 僧侶派遣を完全に「ビジネス化」

    僧侶の時間や供養が、単なる商品として扱われています。紹介料(マージン)は当然のように発生し、

    お布施の50〜75%を中抜きする体制すらあります。僧侶が疲弊するのは当然です。

    ✔② 施主と僧侶を「直接つながせない」構造

    派遣会社にとって最も困るのは、「施主が僧侶と直接縁を結ぶこと」です。

    僧侶と施主がつながれば、次回の法事は“派遣会社を通さずに依頼”されてしまうからです。

    そのため、

    ・僧侶に名刺を渡させない

    ・施主の住所・連絡先を教えない

    ・葬儀や法事の相談は禁じる

    ・寺院名を伏せ「真言宗の僧侶」とだけ伝える

    という仕組みが作られています。これは完全な“遮断”です。

    ✔③ お布施を施主に先に振り込ませる

    事前振込で派遣会社が全額を受け取り、当日は僧侶だけを行かせるパターンもあります。

    施主は「お布施を全部僧侶に渡した」と思っています。

    しかし実際には、僧侶には数万円しか渡っていない……というケースも珍しくありません。

    ✔④ 僧侶の質を問わない構造

    派遣会社は「派遣可能かどうか」だけを重視します。

    ✔ 寺院に所属していない

    ✔ 経歴が不明

    ✔ 法衣や作法が不十分

    こうした僧侶でも、仕事が回ってきます。施主は「宗派だけ」を知らされているため、

    その事実を知りようがありません。

    ✔⑤ 地元寺院を避け、わざと遠方の僧侶を派遣する

    群馬の葬儀に東京・千葉・神奈川の僧侶が来る。これは珍しくありません。

    理由は単純です。地元の寺院だと施主と縁が結ばれ、派遣会社の利益が失われてしまうため。

    だから“あえて距離のある僧侶”を派遣するのです。

    ✔⑥ 私自身が体験した「低価格僧侶派遣」の実態

    10年前、私も派遣会社から「登録しませんか?」と誘われました。

    内容は次の通りです。「群馬県で低価格葬儀を受けてほしい」

    「お布施7万5千円のうち4万円を払ってください」= 僧侶の手残りは 3万5千円

    しかも、依頼は翌日の葬儀/福島・長野・千葉など遠距離という無茶なスケジュール。

    「困っている家庭を助けたい」という思いで当初は協力していましたが、現実的に継続は困難でした。

    ✔⑦ 直接依頼があっても“紹介料を取る”ケース

    施主が感謝して「次回の法事もお願いします」と直接連絡してくれても、派遣会社に報告し、紹介料を支払うルールになっています。派遣される僧侶は完全に“縛られた立場”になります。

    ✔⑧ 宗教法人を買収し、収入隠しをした葬儀社もあった

    ある葬儀社は、宗教法人を買収し、その名前を使って

    ・僧侶の紹介料を宗教法人の収入と偽って計上

    ・法人税も所得税も申告しなかった

    という事件がありました。

    これは完全に違法です。

    ✔⑨ 葬儀・僧侶派遣・納骨まで“一社独占”の企業も登場

    最近では、

    ・葬儀

    ・僧侶派遣

    ・納骨堂

    ・墓地

    ・永代供養

    すべてを自社で提供する企業もあります。つまり“最初から最後まで顧客を離さない”ビジネスです。

    宗教の世界ではなく、もはや 葬儀産業の独占商法 と言えます。

    ■4|施主が本当に望んでいるのは、とてもシンプル

    施主さんが求めているものは、複雑ではありません。

    ✔ 心のこもったお経

    ✔ 丁寧な法話

    ✔ 明朗なお布施

    ✔ 檀家にならなくてもよい自由さ

    一方で僧侶が求めているものも、同じくシンプル。

    ✔ 正当なお布施

    ✔ 忘れられないご縁を大切にすること

    ✔ 誠実な供養

    しかし、葬儀社や派遣会社が“利益優先”で間に入りすぎると、この自然な関係が断たれてしまうのです。

    ■5|結論

    この問題の核心はただひとつ。

    🔥 本来「心」の世界である葬儀が 商取引の“利益補填”に使われてしまっている。

    そしてそのために、施主と僧侶をつなげないようにする構造が生まれ、結果として葬儀の本質がゆがんでしまった。

    以上、皆さまのご意見、ご感想をお聞かせ下さい。